【2】きょうだい児の強い反抗
■きょうだい児の強い反抗
この入院の時も、たけしが行くおばあちゃん達の家はいつも行っている家で、突然遠いおばあちゃん家に預けるわけじゃないし、合気道の合宿も毎年行ってるし、いつもの夏と同じような気持ちで行かせて、それで何の問題もないと思ってたんです。
そしたら3週間位経って、お父さんとおばあちゃんと一緒に○○県の病院に、夕方6時頃たけしが面会に来て、私も久しぶりに会ったんで、ああそうだこの子もいたなという感じだった。
たけしは3年生でもう大きいから、いつものように夏休みを過ごしたねという調子で私は接しようと思ったんです。
道路で、「久しぶりじゃん」と私が言ったら、何かこう表情がちょっと変で、たけしが「ママじゃない」と私の顔見て言うから、「ママだよって、忘れちゃったの」って言ったら、たけしが「ロボットだ」って。
「ママ、ママロボットだ、偽者だ」とかって言って。
妙な事言うなと思って、ふざけているのかと思って、「ママだよ、やだ変な事言わないでよ」とかって言ったら、「違う違う」ってすごい普通のごく当たり前みたいな顔して言うのね。
「これは偽者である」とか言って、「騙されないぞ」と言うんですよ。
それが別に泣いてるでもなく、特にすごく激しく言うでもなく、そういう感じだったから、皆ぎょっとしちゃって、何かやばいと思って、そうかやっぱりこの子もそんな衝撃受けてたのかなって、その時初めてびっくりしました。
■きょうだい児への対応
それまでは電話で話している時も、誰に対してもたけしは普通で、「楽しかった?」と聞くと、「うん楽しかったよ」と電話では言っていた。
電話は3日、4日に1回位していたかな。
「ももは手術したよ、元気だよ」とも報告していたんです。
でもいざ久しぶりに会ってみたらたけしがそういう状態だったので、一晩ビジネスホテルに泊まって、「今日はママと一緒のベッドで寝ようよ」とシングルの狭いベッドに寝ました。
それでもたけしは「ロボットなんかと一緒には寝られません」とか言っていた。
その日はずっとこう「ママロボットである」という事は変わらなかった。
次の日の朝起きたら、「あっ、ママが普通のママに戻っている」、「これは普通のママだ」とか言っちゃって、やっとこう偽者じゃないママにさせてもらった。
それで一日一緒に過ごしてたけしは帰っていったんです。
それがあってちょっと気持ちが兄に向く。
でもまだ私の気持ちはその病気の事で一杯で、全く変な事言っちゃってみたいな気持ちだった。
元々ちょっと変わった事言う子だったから、「たけしはおかしい事言うよね」位の調子だったんですね。
■捨てねこへの感情移入
その後4、5日で退院だっていう時に、また病院にたけしが来たんです。
その時はもうロボット扱いされはしなかったんですけど、ちょうど病院の門の所で捨て猫がすごい勢いで鳴いていたんですね。
私は猫がすごく好きだから、困ったなと思って。
拾いたくないのでなるべく見ないようにしていたら、息子がささっと行ってそれを抱いちゃったんです。
あの子はあんまりこれまで猫にそれほど興味がなかったんですよ。
両親が猫が大好きだから、逆に嫌だったくらいだったのが、もうその子猫を放さなくなっちゃって、「この子を連れて帰る」と言い出して。
地方の病院から東京へ連れて帰るという問題や、またその猫がノミだらけで、ものすごく汚い、もう病気だから長いことないという事もあって、私はもうこんな時に動物を増やすなんて冗談じゃないって。
家にはすでにその時に2匹いたんですよね。
もう2匹だけでも結構大変だったんだから、無視しようと思ったんですけど、父親が「いいじゃん、連れて帰ろうよ」って言うから、「えーっ」て、「私は何も出来ないよ」と言いました。
でもその時のお兄ちゃんの異常なかわいがり方が、やっぱりちょっと違うかなと思って。
それは後になって思うと、やっぱりその子猫と自分をどこかで、重ねてた所があるのかなと思ったんです。
そんな汚い子猫をハンバーガーの紙袋に入れて、東京まで持って帰っちゃって。その後も良く面倒を見て、これは僕の猫だとすごく可愛がったんですね。
つまりたけしは猫に救われたのでしょうね。
きょうだい児の意思表示があってから、母親はたけし君の心情もみなくてはと思ったようです。
しかしその後もももちゃんの手術が何回も続いたり、お腹に3人目のお子さんができたけし君中心に考えることはできなかったということでした。
その後たけし君もおちつき、成長していったようです。
■面会時の緊張
その時期は小児病棟だったので、子どもは病棟の中に入って面会することができなかったようです。
だから手術の日も手術室から出て来た時に顔を見ただけで、いつもガラスの向こうに居るももちゃんを見ているしかないのです。
ももちゃんが元気になってくると病棟から出て、病棟の外でたけし君と会えたそうです。
面会に来た時はやっぱりすごくよそよそしいですね。
何かどぎまぎしちゃっている感じで。何か自分の妹なんだけど、妹じゃないみたいな。
いっぱい管でつながって車イスにすわっている妹を見るのは照れくさい。
優しい言葉をかけたいけど、そんなの格好悪いみたいな様子ですごく緊張した感じでしたね。
だからそれがかわいそうだなと思って。
入院してるももはいつもと変わらないお兄ちゃんので平気なんですよ。
「わーっ」とか言って、喜んで喧嘩しようとするんだけど、お兄ちゃんはどうして良いのかわかんない。
やっぱりあの閉鎖的な病棟の雰囲気はきょうだいには辛いですよね。
その1年半後脊椎の手術をしたももちゃんは、ハローベスト(固定器)を装着することになりました。
その装着手術は整形外科病棟で行いました。その病棟は小児病棟よりも自由な時間に面会ができたようです。
たけしには『病院へ行こう』という映画の中でハローベストが出てくるんですが、前に見た事があったので「あれだよ」と言って、説明をしておいたんですね。
たけしは「ロボットみたい」とか、「何か宇宙人みたい」とか言っていました。
手術して何日かしてから「すごいのつけたから見に行こうよ」と言って、さんざん前宣伝をしておいて見たら「うわー」とか言って驚いていました。
でもどうなんだろう、ショックうけたというより、「すごいすごい」と騒いでたかな。
前宣伝しないで見たらびっくりしたかな。
私自身やっぱり手術室から帰ってきた姿を見た時は、わかっていたけど、鉄の鳥籠に入ってるみたいで、もうひどいもんだなっていう感じを受けたから。
やっぱ最初の頃の手術の方が家族は取り乱すし、手術と入院に親も慣れていかないと、きょうだいにまで目もいかない。
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